キング牧師の偉大さをわりと後になってから知った話
大人になってから大学のオンラインコースで勉強させてもらう機会が何度かあり、そのうちの1回が、キング牧師とも一緒に公民権運動をやっていたマーシャル・ガンツ先生のコミュニティ・オーガナイジングの授業だった。当時あんまり英語力もなくて理解もあんまりおぼつかなかったが、そこでアメリカの公民権運動についてのイメージが変わった。
コミュニティ・オーガナイジングとは
コミュニティ・オーガナイジングと聞いてすぐに何のことだかわかる人は少ないと思うので簡単に説明をしておこう。超シンプルに言えば「目標を達成するために、どうやって運動を大きくして、人を巻き込んでいくか」というやり方のことで、アメリカの社会運動ではいろんなところにコミュニティ・オーガナイジングの手法が使われている。
運動を大きくするというのは、単なる動員ではない。SNSで誰か(スーパーリーダー)が呼びかけて、みんなが集まったとする。単一のアクションへの反応として、みんな(フォロワー)が同じことをすることは、しばしば動員だ。そうじゃなくてコミュニティ・オーガナイジングには、たくさんのリーダーがいる。たくさんリーダーたちは、周りの人たちにも働きかける。
自分が習ったマーシャル・ガンツ先生の授業では、リーダーとは「他の誰かのために責任を取る」人のことを指していた。自分のためだけに生活していくことは容易かもしれないが、私はそれを選ばないぞ、という姿勢のことだ。私にとって、なんでこれが大事なのかを自分の言葉として周囲に表明することができる。そして、周りの人に「一緒にこれをやろう」と呼びかけ、運動にまきこむことができる。
もし集会に人を集めることが大事なのだとしたら、リーダーたちは少なくとも7人の知り合いに声をかける。そして、声をかけるだけじゃなくて「あなたはこのことについてどう思うの?」とか、人間らしい双方向のコミュニケーションをする。
リーダーシップの定義を見直して、たくさんのリーダーが生まれるようにどうしたらいいか考える、というのは自分にはとても新鮮だった。
キングたちの偉大さの意味
マーシャル・ガンツ先生はキング牧師らが展開した公民権運動に実際に関わった人で、そこでの戦略を学術的に体系化したことで知られている。必然的に講座の中では、公民権運動のエピソードがいろいろと出てきた。
自分はそれまで、キング牧師といえば、いかにも偉人の伝記に出てくる人、非暴力のボクシ、偉大な演説をした人ぐらいのイメージしかなかったのだが、かれらがいかに戦略的にも集団としても最強だったかということを、だんだん理解するようになった。
たとえば、モンゴメリのバス・ボイコットでも、あそこで起きていたことは単にローザ・パークスが疲れていて白人に席を譲りたくなかった、という話ではなかったことを知った。ローザ・パークス以外にも逮捕されている人はいたけれど、ローザ・パークスはとても人望があり、運動のシンボルとしてふさわしい人だったので、彼女の逮捕は「特別」になった。このような事件が生じたとき、これをチャンスとして中長期にわたるキャンペーンを組み立てられたことがかれらの強さだった。
逮捕されるリスクとセットで、運動のチラシを印刷した人がたくさんいて、バスの代わりに乗合の車をそれぞれ手配しあえる人がいて、死ぬリスクを犯した人がたくさんいて、10万人のワシントン大行進は一つの形態にしか過ぎなかった。
21世紀の我々が考えたいこと
ネットもない時代に、少しでも乱れたら一触即発で逮捕になるような10万人のデモを、「誰々は何時に、ここのバスから帰ること」などと緻密にロジスティックを組めるだけの力があれば、そして1年間にわたるバスボイコット活動ができる力があれば、次にはいったい何をしでかすのか権力者にとっては恐怖でしかなかったわけだ。
オバマ夫妻が制作に関わった映画『ラスティン: ワシントンの「あの日」を作った男』は運動の教科書みたいだから、関心のある人はぜひ観てほしい。ロジスティックの鬼だったラスティンは、男性同性愛者として(当時は犯罪と見做されていたから)逮捕され、活動のクレジットを長年得られなかった人でもある。
これに対し、現在の10万人は、ハッシュタグですぐに集まるが、集まったときが活動のピークであり、運動の方針転換など変化にたえうるキャパシティがないからその後しぼんでしまうことと『Twitterと催涙ガス』の著者ジーナップ・トゥフェックチーは指摘している。
ただ、SNSを使ったアクティビズムが全部弱いのかというと、そう結論してしまうのも気が早いように思う。
たとえばブラック・ライブズ・マターのリーダーたちは、自分たちは突然沸いたハッシュタグ・アクティビズムではなく、地元の人たちを訪問しては仲間を広げてきたコミュニティ・オーガナイジングの集団なんだということを、著作などで強調してもいる。両方の部分がある、といった感じだろうか。
先日当選したNYのマムダニ市長も、インスタにリアクションを行うとボランティアに組織化され、個別訪問などを一緒にやることになった人がたくさんいた。どう組み合わせるかが大事ということだろう。
どう地道なつながりを展開していくか、といったことはずっと考えていることだが、長くなりそうなので、いったん今日はここまで。
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